木の上のケンムン

ついに今年最後の土日、そして月曜日が最後の営業日。年賀状がまだできていない。写真を選び、レイアウトを考えとやっていくうちに満足いかず進まない。結局、毎年しょぼいのしか作れないのだが。日記も決まった時間に書けないのでさっさと書いてしまおう。本当にこの公開日記っていったい何だろうと思いながら、それでもなるべく毎日続けようと思っている。
雲の上のケンムン の続きです。
子供がいつものように木の上でお昼寝をしていた時です。
「こんにちは!」
びっくりしたひょうしに子供は木から落ちそうになりました。
一人の男が木の下からにこにこ笑って見上げています。
子供はおそるおそる尋ねました。
「僕がみえるの?あなたは人間じゃないの?」
男は答えました。
「僕は人間だよ!でも君が見えるし、君が誰かも分るよ。なんだか懐かしい気もするんだ」
子供も不思議と男と同じように、この人は初めて会うのになんだかほっとすると思いました。
「ずっと一人でさびしくなかったかい?」
男はやさしい目で子供を見つめながら話しかけました。
「さびしくなんかないよ。人間には誰にも気づいてもらえないけれど、僕には鳥や虫が話しかけてくれるし、この大きな木もずっとそばにいるからね」
「ははは、そうか、そうか」男はもっとにこにこした顔でいいました。
それから優しく
「でも、君は嘘をついているね。本当はさびしい顔をしているよ。本当の気持ちを僕に話してごらん。」と問いかけました。
しばらく黙っていた子供はずっと我慢していたことを男に話したくなりました。
「僕、本当はみんなと一緒に踊りたいんだ。それから歌も歌いたいし、手もつなぎたい」
男はうなずきながら聞いていました。
「やっぱり、そうか。僕も君と同じだったんだよ。ずっとそうやって木の番をしながら人間にあこがれていたのさ。」
子供は目をぱちぱちさせて聞きました。
「どういうこと?」
「僕は君と同じように昔、雲の上に住んでいたのさ。でもどうしても下の世界に行ってみたくなって思いきって雲から飛び降りたんだ」
「それなのに、どうして人間になったの?いったいどうやって!」
男は大きな声で笑いました。
「そうだ。それを教えてあげたかったんだ。人間になるのは簡単といえば簡単、難しいといえば難しい。満月の夜にそこの海に飛び込むだけでいい。ずっと深く潜るとどんどん体が海に溶けて行く。しまいには体全体が海と同じになり何もなくなる。そして次に目覚めるときが新しい命をもって産まれてくるときなのさ」
「人間の赤ん坊に・・・」子供は目を大きく開いたまま男を見つめています。
「いや、人間に産まれてくるとは限らない。もしかしたら牛や豚かもしれないし、鳥や魚、虫かもしれない。難しいといったのはそのことだ。僕もね、人間の前は猫だったよ。その前はカエルだ!」
笑いながら続けます。
「そうやってね、何度も生まれ変わってきた。それを最近やっと思い出したんだ。ある日、突然猫が話しかけてきてね、びっくりしたけれどその猫が全部教えてくれたから謎が解けた。命のもとの話さ」
「それで、ここに来たの?」
「そう!君に会いに来たんだ」
子供は驚きました。でもすぐに理解することができました。
子供もようやく次にすすむ番が来たのです。
おおきな木が低く響く声で話しかけました。
「おまえはまた人間になりたくなったのだな。それでちゃんとまた人間になれるか心配なんだね。大丈夫、ここでもう少し待っていなさい。そうすれば君をずっと待っている人がもうすぐここへやってくる。そしたら一緒に海に入るんだ。そのとき、ちゃんと願いは叶う・・・」
子供はもうすっかり安心しておおきな木の声を聞きながらまた眠ってしまいました。
様子を見ていた男もおおきな木のそばをそうっと離れて人間たちの輪の中に戻って行きました。
男はそれからまあるいお月さまのしたで、仲間が奏でる音楽に合わせて木の精や海の神様に捧げる感謝の踊りを舞ったのでした。