秋名

思えば、昨日は年に一度しかいけないところへ行って来た。
お墓参りに行くとそのときだけ顔を合わす親戚や村の人達に会える。
ご先祖さまに挨拶というよりもそっちのほうが大事のような気もする。
「あれ?あんたは初っちゃんとこの子じゃないね?」と知らないおばさんに声をかけられた。聞けば幼稚園に通う前に住んでいた家の近くにいたおばちゃんで、僕の小さな頃の写真も持ってると言った。40年も前の話だ。どうして一瞬顔を見ただけで分かるのだろうと思う。母の実家はもう祖母が亡くなってからは誰も住んでおらず、東京に住むおじさん夫婦が帰ってくるときだけ、みんなそこに集まる。
普段は誰もいないのが嘘のように家はちゃんと生きていた。いつものテーブルに座り、秋名ことばと言われる独特のやさしいイントネーションの方言に耳を澄ますとおじもおばもアニもネーもまだまだみんな元気ですごく嬉しかった。僕はそこではまだ子供のままで、大人のいつも明るくにぎやかな声に包まれながら安心感のなかでゆらぐ感じ、やはり天国に一番近い(天に通じる)場所なんだろうなと思った。