ばーばと甥っ子のさく太郎を車に乗せて叔父の店、高千穂理容室に行く。少し手前の道から赤と青と白のくるくる回る看板が回っていないのが見えた。もしやの不安的中、本日は午後から営業しますと張り紙がしてあった。残念ながら出直すことに。出てきたついでにさく太郎の好きなサンドイッチカフェのフライドポテトを買いに行く。家でお留守番中の妹とパパとママの分のサンドイッチも一緒に注文した。「揚げたてをお持ちしますので5分ほどお待ちください」と言われ、待っている間空いてる席に腰かける。その時、隣の席に座っている女性と目があった。お互い、あれ?って感じだったがすぐに目をそらす。違うよなぁ?ちらちらと視線を送るが目は合わない。迷ったが声を掛ける勇気はない。似ているだけかもしれないし・・・それよりもむこうは気が付いたけれど知らないふりをしてるのかもしれない。それはなんだか悲しいし寂しいけれど。それよりも、もし違ってたらこんなじじぃから同級生と間違えられたら迷惑だよなとか考え声をかけるのをためらった。たしかにその女性は僕よりも若くみえた。ふとテーブルの正面に目を向けるとさく太郎が居心地悪そうに座っている。そうだ、何か話さないと。「なぁ、さくは奄美小だよな。さくのパパもオレも同じなんだけどさ、昔は幼稚園も一緒の敷地にあってね」となんの脈絡もない話を唐突に始めた。微妙な表情のさく太郎。「その幼稚園の時にオレ、いじめっ子だったらしいんだ。しかも女の子に」さく太郎の目がすこしだけ光った。「自分ではよくわからなかったんだけど、ある日みんなの前で先生に注意されたんだ。君はどうしてHちゃんばかりいじめるの?って。そのあと先生は少し意地悪そうに笑って言ったんだ。Hちゃんが好きなんだよね?って」さく太郎がひぇーって笑った。さく太郎の反応はもはやどうでもいい。となりは?となりの彼女の反応は?ーもしも、彼女が同級生のHちゃんなら、、、おそるおそる隣をみる。まったく聞いていなかった。普通に連れの女性としゃべってるしー。人違いかー
結局声を掛けられないまま店を出る。ばーばとさく太郎を家に送った帰り道、先ほどの女性が向かいの歩道を連れと一緒に歩いてくるのが見えた。落ち着いてみるとやっぱりそうだ。間違いない。でも車の中から声を掛けることはできない。もう一度こちらを見てくれないか、目があえばと期待したが、そのままあっさりとすれ違った。同じ島の中で暮らしていればばったり会うことなんて珍しくはないだろうが同窓会すら出ていかない僕はどんどん疎遠になっていくばかり。ばーばの言う通り、年を重ねれば重ねるほど同級生って嬉しいしありがたいもんよって。勝手な想像だが彼女は今とっても幸せそうに見えた。僕は何を気後れしたのだろう。ただ元気?って声をかけるだけで良かったのに。