前回、いつ髪を切ったかわからないが何となく頭がもさっとして不潔っぽい。くせ毛で白いものがまだらになってて、伸びてくるとそんな感じになるのだ。チビと一緒に名瀬のおじさんのところに切りに行く。ぼくが初めておじさんのところで髪を切ってもらったのが小4くらいだったか。姉妹で美容室をやってた叔母が嫁いだ先が理容室だったのだ。それからずっとお世話になっている。おじさんは一人で朝8時半から夜7時まで休まず働いている。もう70を過ぎてるがまだまだ元気だ。ドア一枚で自宅とつながっていて、おばさんがよくそこから顔をのぞかせる。田舎の街でもいろいろ変わっていくが、この店はずっと昔のままだ。変わったのはテレビが液晶になったくらい。漫画が大好きだった僕はいつもそこで4週分の少年ジャンプをまとめて読んだ。「ド根性ガエル」に「リングにかけろ」「ストップひばりくん」、「こち亀」もか。いつも髪を切って頭を洗ってもらうだけだったが、あの泡をいっぱいつけてひげをそってもらってるお客さんの気持ちよさそうな顔。床屋さんのにおいはあのシェービングフォームの匂いなのか、それともメンソールの効いたシャンプーか。子供のときにみたそのお客さんよりも今の僕のほうが年を取ってるはずだけど、いまだに顔そりはしない。一緒に髪を切ってもらったチビは最近バリカンが平気になった。頭も洗う?って聞かれたけれど、そのままでだいじょうぶって答えてた。まだ前にかがんで頭を洗うのは不安があるみたい。同じ場所で同じ人に髪を切ってもらっている。45年前の記憶もそのまま鮮明に残っているがタイムスリップ感はない。ずっと今が続いてるだけだ。
おじさんは営業時間をきちんと守る。個人商店だからこその規律。お客さんを第一に考える心構えだ。それが長く愛されるお店の秘訣なんだと思う。自分の都合で開店時間を遅くしたり、早じまいしたりしてしまう僕はまだまだ未熟ってこと。