『ぐうたらわんこちゃん』
私はこの家の赤ちゃんクリノスケ君の一歳の誕生日にこの家にやってきた。
ゆきえちゃんがちくちくと作ってくれたの。
ちゃんと座ることはできなくて、いつもべたんと床に寝てしまうからぐうたらわんこちゃんとこの家のお父さんに名付けられた。
クリノスケ君は最初私に全然興味がなかった。
いつもほったらかしでベッドの横で転がっているの。
クリノスケ君のお気に入りはママが作ったテディベア!・・・のリボン。
首に結んでいるリボンが一番好きみたいで、いつもお口にくわえて遊んでいる。
ある日、クリノスケ君が私にかみついた。
私はちょっと痛かったけれど、構ってもらえてちょっと嬉しかった。
すぐにポイってされたけど。でも本当に嬉しかったんだ。
だから寝ている間にこっそりクリノスケ君のそばにくっついていった。
朝、目覚めたときにすぐ気付いてもらえるようにね。
努力の甲斐あってクリノスケ君は次第に私の事が好きになってくれた。
ほっぺにチュウもしてくれる。
たまに噛んじゃうことがあってその時はちょー痛い。
中から綿がでちゃうんだから。
その時は、クリノスケ君のママがちくちく直してくれる。
クリノスケ君はいつも私を噛むからどんどん汚れていく。
クリノスケ君のママは私を洗濯機の中に放り込んだ。
ぐるぐるぐるぐる,目が回って死にそうだった。
そして耳を洗濯バサミでつままれて、外に干された。
太陽って最初はあったかくて気持ちいいなぁと思ったけれど、そのうちどんどん熱くなってやけどしちゃうんじゃないかと思った。
キレイになった私をクリノスケ君のママはクリノスケ君の手が届かないところ、高いタンスの上に飾ったの。
ここからじゃ、クリノスケ君に近づけない。
私はじっと天井を見つめてたままだった。
毎日同じ景色しか見れなくて悲しくなってぽろぽろ泣いた。
ぬいぐるみだって涙は出るんだ。
いっぱい泣いたらシャワーみたいに溢れてベッドに寝ているクリノスケ君の顔にかかった。
びっくりしたクリノスケ君がわんわん泣いた。
クリノスケ君のママがクリノスケ君を抱っこすると、私の目の前にクリノスケ君の顔がきた。
クリノスケ君は泣きやんで嬉しそうに笑って手を伸ばした。
私はクリノスケ君に抱っこされてそれは、嬉しくて嬉しくてもうどんなに噛まれたって平気だって思った。
クリノスケ君のママはそれから私をクリノスケ君のベッドに入れてくれたの。
だから今はいつも一緒。
ちょっとお兄ちゃんになったクリノスケ君はもう噛みつくことはなくて優しくチュウをしたり
いいこいいこしてくれます。
ただ、私だけじゃなくてテディベアの熊五郎にも同じことするんだけどね。
ホームシアター
毎週末に夢紅にでかけ、好きな映画を観る。
大体9時までが通常の営業時間で、
それからがプライベートタイムで自分が選んだ映画を夢元さんや紅さんと一緒に観る。
友達が一緒の時もあったり、ホテルやカフェのお客様が付き合ってくれたりする。
家の小さなテレビで観るより迫力が全然違う。画面も音も。
また一人で観るより誰かの笑い声や驚きの声、鼻をすする音なんかがあったりして盛り上がる。
映画はいつ、どこで誰とみたかがセットになって思い出として残る。
島に戻ってから映画を観ることがぐっと少なくなり、なんだか大事なものを失った気分だった。
最新の映画は観れないけれど、見逃した映画、一度観た映画でも忘れていて、新鮮だったりする。
お茶を飲んだり、食事をしたり、お酒を飲んだりするのと同じで、家もいいけど出掛けて楽しみたい。
今度一緒に観ませんか?
成長
夜中に目が覚めてトイレに行く。
ふと洗濯機の横のかごに目がとまった。
その日の栗の恰好そのまま、小さなTシャツとズボンが僕らの脱いだ服の上に大の字にのっかている。
産まれてすぐの頃は肌着やガーゼのタオルは僕らのものと一緒に洗いたくないからと別のかごに入れていたのに、いっぱい汗を吸った大きいのと小さいのととびきり小さいのが一緒に寝てる。
誕生からもうすぐ一年。
いつの間にかおっぱいを卒業し、テーブルに座って一緒にご飯を食べたり、真剣にテレビを見たり、
つかまり立ちして、手を離し、2、3歩歩いてみせたり、たった一年でどんどん子供らしくなってくる。
こうしてその時々の成長ぶりを確認していかないともったいない。
あっという間だもん、大人になるなんて。