日曜の夜、相棒のほうから珍しく「花火、見に行かない?」と誘ってきた。
栗に初めての経験をさせたいらしい。0歳の赤ん坊にドーンと心臓に響くようなうるさい音は大丈夫だろうかと心配だったけれど、やっぱり花火は夏の風物詩、観ないと損。少し離れた場所なら大丈夫だろうと、急いで夕食を済ませ、シャワーを浴びて出掛けた。会場はすでに人でいっぱいで車も並んでいたから駐車場には入れず、ぐるぐる回って路上の空いたスペースに停め、そのまま車の中から空を眺めた。花火の上がる前の空のスクリーンには贅沢な前座みたいにたくさんの星が輝いていた。会場からだいぶ離れたつもりだったがそれでも結構近くて、音も凄かったけれど、ちびは全く動じず、すーすーと寝息を立てて寝ていた。せっかくの初体験はお預けだ。
二人で次々に上がる花火を見ていたら、記憶はなぜか30年も前に飛び、『夏』がどれだけ特別でわくわくしたかを思い出した。頭の中の18歳の自分がハッと気付いたのは、こんな夜に、こんな夜なのに、Tシャツに短パンにサンダルなんてありえない!一番のお気に入りのシャツを着て、パンツを履いて、スニーカーもそう、目いっぱいおしゃれをして出かけるだろう!誰かと会う約束をしたわけでもないけど、何かを期待しておしゃれをする。お祭りの日だけではなく、いつでもそんな気分だったはずだ。
私服を気にしだしたのは中学生くらいからだったろうか。洋服やでありながら、どこへ行くのもなんでも同じで過ごしている今の自分はその頃の僕からすれば「あっげー!」だ。きっと。
せめて家族全員で浴衣だな。