飽きることなく海へ向かうことができるのは、ずっと音楽を聴いているからで、都会の通勤電車の中ではないから音漏れも気にせず大音量で家から海へそしてまた家に戻るまで楽しむことができる。
疲れていたので、ずっと岩に座って海を眺めていた。毎日書く詩の内容などを考えていて音楽のほかには波の音がいつもよりも高く聞こえた。太陽がでて、晴れているけれど、海の先には黒い雨雲があって糸状に海につながっているから、そこだけ雨が降っているのだろう。その黒いスクリーンを背に海から虹が生えていた。虹は雲の頭のところまでしかなく、切り分けたバウムクーヘンのような形。とにかく長い時間眺めていた。その間、犬はほったらかしで何度も砂を掘り続け、隠れている蟹を引っ張り出して遊んでいた。明神崎の先に雨雲がかかり、虹も次第に長さを伸ばす。少し風がまた強くなって霧のような雨に包まれたかと思ったらいつの間にか虹は海から砂浜まで続く大きなアーチを完成させていた。虹が生まれて完成するまでを初めて見た。そして振り返って太陽の位置を確認したあと、前を向くともう虹は跡形もなく消え去り、僕らはしっとりと海から斜めに降る雨に濡れていた。写真に収めることなどなく、僕とたまたまそこに居合わせたエリカサマ!(注1)だけの特別な眺めだ。日食など待たなくてもいつでも感動的な風景は日常にあふれているのだ。
注1 ※蟹の名前です