明日は休みなのでたまにはゆっくり寝てみたいと思ったけれど、どうせオンに起こされちゃうだろうなと思いながら寝たら、まだ暗いうちに目が覚めた。いきなりアイデアがどんどん浮かんできてもう行動に移したくてうずうずして、隣に寝ている相棒を起こして聞いてもらおうとしたが、案の定うるさがられた。じっと目を閉じていてもどんどん空想は進み、早くしないとまた自己完結して熱が冷めてしまいそうなので、ベッドから降りてオンにご飯をあげ、そのまま一緒に海に行った。雑誌の取材を受けたのはおとといのことで、そこから多分、ちょっと火がついている。海には猫のほっしゃんもついてきた。昨日、家の周りを大きく散歩したときもずっとついてきていて道路を渡るときなどもひやひやした。オンと同じ黒い毛だが丸っこくプニプニ歩く姿がかわいいのだ。海にもついてきて、砂浜を歩く猫はあまり見たことないなと思っていたらやっぱりちょっと警戒しながら入っていった。すぐに慣れてアダンの木の上に登ったり、つめを研いだりする。
家の前の海は大きな岩がごろごろしていて、潮が引いていたので遠くまで岩と緑の海苔と間に取り残された海水に魚が泳ぐ姿が見えた。僕は大きな岩によじ登り朝日が昇るのを待った。喜界島の上に薄く雲がかかりそこから真っ赤な太陽が顔を出した。気がつくとほっしゃんはすぐそばにいて僕がそのまま岩の上に横になると胸のうえに乗っかってきた。ぐるるると小さなエンジンが鳴るような音が胸に直接響いてきて真っ黒いはずの毛は太陽にすかされて赤毛になっていた。オンの姿が見えなくなって探すと大きな椰子の実をくわえてきて
「おーすげー!良くそんなもの見つけたなぁ」
バリバリと器用に皮をむくオンを見ながら
「オンすごいな、どんどんやれー」と声にだしてしゃべっているのをほっしゃんは横でじっと聞いている。
「あぁ、ほっしゃん、気持ちいいね、海は最高だね」と語りかけ、ついでに
「ねぇ、ほっしゃん、ねずみって美味いの?」と聞いてみた。ほっしゃんは何も答えない。代わりに寝ている岩の右の後ろのほうから大きなハブがぐるっと前に現れ、黄色い目を光らせたあと、首もとにガブリと噛み付いてきた。僕は松田優作みたいに「なんじゃこりゃー!!」と言って、あぁ、そんなもんか、これが結末か、まぁそれも仕方ないな・・・と妄想したところで我に帰る。犬や猫としゃべっていても誰も聞いている人はいない。おならも堂々とできる。実際ブッとやったら、ほっしゃんがびっくりした顔でじっとみていたので
「失礼、ほっしゃん。おならしても嫌いにならないでね、ずっとついておいでよ」と声をかけておいた。