上野

まだ続く出張の話。
三日間とも天気が良くそんなに寒さを感じなかった。最終日はアノニマスタジオのある蔵前まで行き、そこから靴の中村さん、classicoの高橋さんに会いに谷中に行く。
途中、地下鉄を御徒町でJRに乗り換えるときにふと思いついて上野まで歩いた。
昔、良く食べた店でお昼にしようと思ったからだ。御徒町からずっと線路沿いを歩いたがアメ横は全く変わってない。雰囲気も売っているものもきっと細かく見たら違うのだろうがほぼそのままある気がした。お目当てのレストランは残念ながら居酒屋に変わっていて、そのかわりすぐ近くのガード下の屋台のような店、その名も珍々軒に入りチャーハンを食べた。そこもよく通った店で味も値段も当時とまるっきり同じだった。昼間からスーツにステンカラーのコート姿のおじさんがお酒を飲みながらギョーザや野菜炒めを食べていて厨房のおじさんのフライパンをカッカッと鳴らす音とおばちゃんの「はーいまいど、いつもありがとね」と威勢良く響く声がにぎやかに入り混じっていて、換気扇から流れる湯気の行方を追うと線路の間の雲ひとつない真っ青な空に吸い込まれていった。20年前の僕も間違いなくそこで同じものを食べていたのだ。変わらずにあるってすごい。
そして勢いで丸井にも入った。無印が入っていたので地下に降りたのだが、天井が低く少し息苦しい気がした。僕がいた頃は社員食堂と休憩室だったはずだ。
今現在目に見える風景よりも思い出のほうが遥かに輝いていて、建物や街並みが変わらずにそこにあるぶん、余計に懐かしさと同時に簡単に流れ去ってしまう時間の残酷さを思う。